2012年度 農学生命情報科学特論IV

Special Lectures on Agricultural Bioinformatics IV, 2012

 

西田洋巳Hiromi Nishida

 

講義日:2012712日(木)

 

ゲノム塩基配列の偏りと生物機能

Genome base composition bias and biological function

 

1. GC含量の分布

ゲノムDNA塩基配列が判明しているゲノムの中で最も低いGC含量はCandidatus Zinderia insecticolaのゲノムの13.5%McCutcheon and Moran, 2010, Genome Biol Evol, 2, 708-712)であり、最も高いGC含量はAnaeromyxobacter dehalogenans strain 2CP-Cのゲノムの74.9%Thomas et al., 2008, PLoS ONE, 3, e2103)である

このGC含量のばらつきの要因は複製時における中立的な変異の偏りにあると考えられている(Sueoka, 1961, PNAS, 47, 1141-1149; Sueoka 1962, PNAS, 48, 582-592; Freese, 1962, J Theoret Biol, 3, 82-101; Sueoka 1988, PNAS, 85, 2653-2657

他方、この変異の偏りが中立的ではなく、GCからATへの偏りが顕著であることも指摘されている(Hershberg and Petrov, 2010, PLoS Genet, 6, e1001115; Hildebrand et al., 2010, PLoS Genet, 6, e1001107; Rocha and Feil, 2010, PLoS Genet, 6, e1001104

この偏りの一因として、ATの生合成はCGの生合成よりも低エネルギーで可能であることとの関連を挙げる説がある(Rocha and Danchin, 2002, Trends Genet, 18, 291-294)ものの、放線菌などは高度に高いGC含量を維持している

複製に関与するDNAポリメラーゼの構成ユニットとGC含量の関連についても報告されている(Zhao et al., 2007, BBRC, 356, 20-25; Wu et al., 2012, Biol Direct, 7, 2

 

2. GC含量とゲノムシグニチャー

コドンの使用頻度やアミノ酸組成における偏りはGC含量に関連している(Knight et al., 2001, Genome Biol, 2, RESEARCH0010

オリゴDNA塩基配列のゲノムにおける出現頻度(ゲノムシグニチャー)がGC含量の影響を強く受けている(Albrecht-Buehler 2007, Genomics, 89, 596-601; Albrecht-Buehler 2007, Genomics, 90, 297-305; Zhang and Wang, 2011, Genomics, 97, 330-331; Nishida et al., 2012, Int J Evol Biol, 2012, 205274

また、回文配列になっているゲノムシグニチャーの出現頻度が有意に低くなっていることが示され、制限-修飾酵素のシステムとの関連が報告された(Gelfand and Koonin, 1997, Nucleic Acids Res, 25, 2430-2439; Rocha et al., 2001, Genome Res, 11, 946-958

この回文配列が避けられていることは単一のゲノム配列中だけではなく、メタゲノムデータにおいても確認された(Dick et al., 2009, Genome Biol, 10, R85

他方、バクテリアやアーキアにおいては短い回文配列群(CRISPR)を保有し、ファージ侵入からの防御に関わっていることが明らかになっている(Sorek et al., 2008, Nat Rev Microbiol, 6, 181-186; Karginov and Hannon, 2010, Mol Cell, 37, 7-19

 

3. 外来性DNA領域のGC含量

ゲノムDNAのサイズとGC含量の関係では、サイズが大きくなるとGC含量が高くなる傾向にあることが示されている(Bentley and Parkhill, 2004, Ann Rev Genet, 38, 771-791; Nishida, 2012, Int J Evol Biol, 2012, 342482

絶対寄生や共生にかかわる細菌のゲノムサイズは小さく、低GC含量であることも指摘された(Moran, 2002, Cell, 108, 583-586

また、外来性のDNA(プラスミドDNA、ファージDNAなど)のGC含量が宿主細胞のクロモソームDNAGC含量よりも低い傾向にある(Rocha and Danchin, 2002, Trends Genet, 18, 291-294; Nishida, 2012, Int J Evol Biol, 2012, 342482

69%と高GC含量のゲノムを有するSymbiobacteriumにおいても、全体のGC含量よりもやや低いDNA領域にトランスポゼースが分布していることなども外来性DNAGC含量と関連している可能性が高い(Nishida and Yun, 2011, Int J Evol Biol, 2011, 634505

外来性DNAGC含量がそれ以外の領域のGC含量と異なるように維持されるシステムは外来性のDNA領域をそれ以外のGC含量に補正するシステム(Lawrence and Ochman, 1997, J Mol Evol, 44, 383-397)と相反している

 

4. GC含量の違いと結合タンパク質

2006年、Salmonellaにおいて、低GC含量の領域に結合する核様体関連タンパク質がその領域にまとめられている外来性DNA領域からの遺伝子発現を抑制していると報告された(Lucchini et al., 2006, PLoS Pathog, 2, e81; Navarre et al., 2006, Science, 313, 236-238

同様のシステムが異なる細菌においても存在していることが報告された(Castang et al., 2008, PNAS, 105, 18947-18952; Gordon et al., 2010, PNAS, 107, 5154-5159; Yun et al., 2010, J Bacteriol, 192, 4720-4731; Smits and Grossman, 2010, PLoS Genet, 6, e1001207

このシステムはファージからの防御システムの一つとして確立してきたものであると考えられる

 

5. 真核細胞における塩基配列の偏り

ヒストン8量体に巻きつくDNAにおける塩基配列の偏りが示されている(Segal et al., 2006, Nature, 442, 772-778; Valouev et al., 2011, Nature, 474, 516-520; Nishida et al., 2012, Open Biol, 2, 120043

真核細胞生物においてはヌクレオソーム形成とDNA塩基配列のパターンに共通のルールが存在し、進化上、継承されてきたことが強く示唆される